概要
同一の形式で表された複数のグラフを平面上に整列させる,Small Multiplesと呼ばれる視覚化手法がある.先行研究によれば,Small Multiplesはデータ分析を目的とした場合において優れた視覚化手法である.またプレゼンテーションなどの情報伝達を目的とした場合においては,アニメーションが優れた視覚化手法であることが報告されている.情報デザインの観点からすれば,有益な知識を伝えるためには,データに形を与え,意味のある情報に変える行為が必要である.上記のような,目的に応じて異なる視覚化手法を用いることは,データに適切な形を与える行為であると言える.
Small Multiplesとアニメーションのいずれかを用いた視覚化を行うツール,すなわち分析または伝達のいずれかを支援するツールは数多く見られる.しかしながら,分析から伝達までを一括して支援する視覚化ツールは見受けられない.
またアニメーションの利用は,統計グラフィックスの変形においても有効であることが報告されている.その一方で,アニメーションの利用は却ってグラフィックスを複雑にする危険性があることも指摘されている.そのため,アニメーションはそのデザインや利用場面によっては必ずしも有効ではないと言える.Small Multiplesについては,グラフの並べ方が異なる複数の視覚化結果を用いて新たな知見を得るための支援をできることが報告されている.ここからSmall Multiplesを用いた分析では,グラフの並べ替えすなわちグラフィックスの変形が行われる必要があると言える.しかし,実際にSmall Multiples中のグラフを並べ替える際のアニメーションの利用が有効であるかは明らかになっていない.
本研究の目的は,Small Multiplesとアニメーションを合わせて用いることによりデータ分析から情報伝達までを一括して支援することである.
以上の目的のために,本研究では,i)Small Multiplesの再配列におけるアニメーションの利用が視覚的探索とユーザの主観評価に与える影響を明らかにするための実験,ii)SmallMultiplesとアニメーションを用いてデータ分析から情報伝達までを一括して支援する視覚化ツールの開発, iii) 開発した視覚化ツールの評価,の3つを行った.
実験および評価の結果から,Small Multiplesとアニメーションを用いた視覚化は,分析においては生じた変化の把握を容易にし、情報伝達においては聴衆の主観評価を向上させることが明らかとなった.また開発したツールは,データ分析と情報伝達をひとつながりの行為として行うことをユーザに促し,専門的な知識を持たない人にも分かりやすいプレゼンテーションを行う支援ができた.