生体信号を用いたコミュニケーションの可能性検討 -心理戦ゲームにおける鼓動情報の活用-

Thesis
稲田 和巳, 生体信号を用いたコミュニケーションの可能性検討 -心理戦ゲームにおける鼓動情報の活用-, 2020, https://www.mast.tsukuba.ac.jp/intra/thesis/fy2020/201711429.pdf

情報メディア創成学類 2020年度卒業研究論文。

概要

生体信号に含まれる人の内的状態は、外面的に得られる情報とあわせてより多くのことがらを明らかにできる可能性があり、また、その障害となる心理的障壁をゲーム環境では少なく抑えることができる可能性がある。さらに、生体信号が持つ情報は、メディアコンテンツの鑑賞・利用において積極的に活用することで、コンテンツの魅力をより高めることができる可能性がある。このことを、実際にゲームコンテンツを制作し、テストプレイと印象評価を通じて検証した。

制作した心理戦ゲームデバイス

研究のきっかけ

スマートウォッチなどの普及により、自分の心拍数や活動量を測ることは日常的になりました 。本研究は、こうした「人間の身体から発せられるシグナル」をセンシングし、何らかのクリエイティブワークに活用したいという関心からアイデアを模索した成果として生まれました。

先行研究では、心拍などの生体信号はストレスや感情を反映する一方で、日常的な場面で他者と共有することには心理的な抵抗を伴うことが指摘されていました 。そこで本研究では、あえて「相手を欺くことが戦略となる心理戦ゲーム」という環境に注目しました 。この環境であれば、生体信号の共有がゲームを有利に進めるための情報(リソース)として機能し、共有への抵抗感も低減されるのではないかと考えました。

開発のプロセス

研究の仮説を検証するために、ソフトウェアとハードウェアの両面を独自に構築しました

  • 「触れる」センサーを組み込んだコントローラー: ゲームをプレイしながら自然な形で心拍を測定できるよう、3Dプリンターを用いて専用デバイスを設計しました 。指先でセンサーに触れる位置や持ちやすさを検討するため、複数の形状試作を重ねて現在の形に決定しています 。
  • リアルタイムで同期する対戦アプリ: 「海戦ゲーム」をベースとしたWebアプリケーションを開発しました 。2台の端末間でゲームの進行と心拍データをリアルタイムに共有する仕組みを実装し、相手の心拍数の変動を盤面上で数値やグラフとして確認できるように設計しました 。
脈波測定機能を持つコントローラーの設計のようす
ゲーム画面のソフトウェアのスクリーンショット

検証実験

大学生を対象とした対戦実験を行い、心拍情報の共有がプレイにどのような影響を与えるかを観察しました 。

  • 戦略的なやりとりの増加: 心拍数が表示されると、相手の数値の変化を指摘して挑発したり、あえて自分の考えを口に出して相手の反応を探ったりするなど、対局を有利に進めるための活発なやりとりが見られました 。
  • 心理的ハードルの変化: アンケートの結果、多くのプレイヤーが「ゲーム中であれば、自分の心拍を相手に知られることに抵抗はなかった」と回答しました 。特定の文脈(遊び)の中では、生体信号の共有がネガティブなものではなく、楽しさを生む要素になり得ることが示されました 。

この研究のこれから

この研究で得られた知見は、ゲームだけでなく、遠隔コミュニケーションにおいて言葉以外の「存在感」を伝えたり、映像鑑賞での没入感を高めたりと、多様な分野への応用が考えられます。

なお、本研究の成果は日本デザイン学会論文誌の掲載論文でもご覧いただけます。