情報メディア創成学類 2025年度卒業研究論文
概要
本研究では、大学生が自身の経験を記録し、記録に基づく自己分析を行う過程を支援するために、大規模言語モデル(LLM)を活用した対話型キャリア支援ツールを開発しました。筑波大学で活用されてきた紙媒体のキャリア支援ツール(CARIO・SAGASU)が抱える「記録の難しさ」「分析の難しさ」という課題に着目し、記録と分析を統合したWebアプリケーションとして再構成しました。
比較実験の結果、提案ツールは記録・分析タスクにおける作業時間の短縮や、操作性・満足度の向上に寄与する傾向が確認されました。これにより、本研究で提案した対話型キャリア支援手法は、既存の紙媒体ツールの課題を軽減し、自己理解を支援する新たな可能性を示しました。
研究のきっかけ(動機)
近年、キャリア教育は単なる就職支援にとどまらず、「自己理解を深め、自ら将来を構想する力」を育てる教育として重要性を増しています。筑波大学では、学生が経験を記録する「CARIO」と、自己分析を行う「SAGASU」という独自の取り組みが行われてきました。

しかし、これらは紙媒体のワークシート形式であるため、以下のような課題があります。
- 記入項目が多く、手順が複雑である
- 記録と分析が分断されている
- 過去の記録を探し出して参照する必要がある
一方で、教育現場ではICTの普及が進み、さらに近年はLLM(大規模言語モデル:大量の文章データを学習し、自然な対話や要約が可能なAI技術)が発展しています。本研究は、「対話型AIを活用すれば、経験の言語化と自己分析をより自然に支援できるのではないか」というアイデアから生まれました。
解決・制作のアプローチ
PCで利用可能なWebアプリケーションシステムを開発しました。
記録機能:対話による経験の言語化
チャットボットとの対話を通じて出来事を振り返ることができます。固定的なワークシートとは異なり、対話の流れの中で振り返りを深めることができるような構造になっています。

- 「最近どんなことがあった?」などの自由な問いから開始
- 入力内容に応じて動的に生成される“追い質問”
- 対話内容を自動要約
- 追加情報の入力と再要約が可能
分析機能:12要素による横断的自己分析
記録と分析が一つのシステム内で連続的に行える点が、本研究の設計上の重要な特徴です。分析機能では、過去のすべての記録を参照し、SAGASUの枠組みを参考に再構成した以下の12要素に基づいて自己分析を行います。
- 課題
- 情報収集力
- 企画力
- 計画力
- 主体的行動
- 対人
- 対人理解
- 表現力
- 協同・統率
- 関係構築
- 自己
- 規範意識
- 自己管理
- 自己理解
- 将来志向


分析結果は、以下のように複数の方法で提示されます。
- 要素別スコアの数値化
- レーダーチャートによる可視化
- 強み・弱みの提示
- 分析に基づくアドバイス
検証実験と得られた知見
紙媒体ツール使用群と提案ツール使用群の比較実験を実施し、記録の心理的負担の軽減・分析作業の効率化・客観的視点の提示といったことに寄与する可能性が示唆されました。
実験参加者からは以下のような意見が寄せられました。
- 記録タスク・分析タスクともに作業時間が短縮
- 操作のしやすさ、満足度が高い傾向
- 「柔軟な質問が良い」
- 「人を相手にしないことで心理的負担が軽減された」
- 「客観的視点を得られた」
今後の展望と成果
本研究は、紙媒体中心であったキャリア支援を、LLMを活用した対話型デジタル支援へと再構成した点に意義があります。
特に、以下のようなことは、従来のキャリア支援ツールの構造的課題を補完する設計であるといえます。
- 記録と分析の統合
- 学習者の自然な言語入力の活用
- 蓄積データに基づく横断的分析
今後は、長期的な継続利用による効果検証や、自己分析を加えた分析の深化についての可能性が残されています。