情報メディア創成学類 2025年度卒業研究論文
概要
本研究は、大学生が自身の経験を記録し、記録に基づく自己分析を行う過程を支援するために、大規模言語モデル(LLM)を活用した対話型キャリア支援ツールを開発し、その有効性を検証したものである。筑波大学で活用されてきた紙媒体のキャリア支援ツール(CARIO・SAGASU)が抱える「記録の難しさ」「分析の難しさ」という課題に着目し、記録と分析を統合したWebアプリケーションとして再構成した。
比較実験の結果、提案ツールは記録・分析タスクにおける作業時間の短縮や、操作性・満足度の向上に寄与する傾向が確認された。以上より、本研究で提案した対話型キャリア支援手法は、既存の紙媒体ツールの課題を軽減し、自己理解を支援する新たな可能性を示した。
研究のきっかけ(動機)
近年、キャリア教育は単なる就職支援にとどまらず、「自己理解を深め、自ら将来を構想する力」を育てる教育として重要性を増している。筑波大学では、学生が経験を記録する「CARIO」と、自己分析を行う「SAGASU」という独自の取り組みが行われてきた。

CARIOホームページ https://syushoku.sec.tsukuba.ac.jp/career/?page_id=11470
しかし、これらは紙媒体のワークシート形式であるため、
- 記入項目が多く、手順が複雑である
- 記録と分析が分断されている
- 過去の記録を探し出して参照する必要がある
といった課題があった。
一方で、教育現場ではICTの普及が進み、さらに近年はLLM(大規模言語モデル:大量の文章データを学習し、自然な対話や要約が可能なAI技術)が発展している。
本研究は、「対話型AIを活用すれば、経験の言語化と自己分析をより自然に支援できるのではないか」という問いから出発している。
解決・制作のアプローチ(プロセス)
■ 記録機能:対話による経験の言語化
本システムは、PCで利用可能なWebアプリケーションとして開発された。
記録機能では、チャットボットとの対話を通じて出来事を振り返る。

プロセスの特徴
- 「最近どんなことがあった?」などの自由な問いから開始
- 入力内容に応じて動的に生成される“追い質問”
- 対話内容を自動要約
- 追加情報の入力と再要約が可能
このように、固定的なワークシートではなく、対話の流れの中で振り返りを深める構造とした。
■ 分析機能:12要素による横断的自己分析
分析機能では、過去のすべての記録を参照し、以下の12要素に基づいて自己分析を行う。
<課題>
- 情報収集力
- 企画力
- 計画力
- 主体的行動
<対人>
- 対人理解
- 表現力
- 協同・統率
- 関係構築
<自己>
- 規範意識
- 自己管理
- 自己理解
- 将来志向
これらはSAGASUの枠組みを参考に再構成されたものである。


分析結果は、
- 要素別スコアの数値化
- レーダーチャートによる可視化
- 強み・弱みの提示
- 分析に基づくアドバイス
として提示される。
記録と分析が一つのシステム内で連続的に行える点が、本研究の設計上の重要な特徴である。
検証実験と得られた知見
本研究では、紙媒体ツール使用群と提案ツール使用群の比較実験を実施した。
■ 評価指標
- タスク完了時間(定量評価)
- 5段階リッカート尺度による主観評価
- 自由記述による定性評価
■ 主な結果
- 記録タスク・分析タスクともに作業時間が短縮
- 操作のしやすさ、満足度が高い傾向
- 「柔軟な質問が良い」
- 「人を相手にしないことで心理的負担が軽減された」
- 「客観的視点を得られた」
といった意見が確認された。
これらの結果から、LLMによる対話型支援は、
①記録の心理的負担の軽減
②分析作業の効率化
③客観的視点の提示
に寄与する可能性が示唆された。
今後の展望と成果
本研究は、紙媒体中心であったキャリア支援を、LLMを活用した対話型デジタル支援へと再構成した点に意義がある。
特に、
- 記録と分析の統合
- 学習者の自然な言語入力の活用
- 蓄積データに基づく横断的分析
は、従来のキャリア支援ツールの構造的課題を補完する設計であるといえる。
今後は、
- 長期的な継続利用による効果検証
- 自己分析を加えた分析の深化
などが課題として挙げられる。
本研究は、対話型AIを「思考を代替する存在」ではなく、「省察を支援する存在」として位置づけ、キャリア教育の新たな支援モデルを提示したものである。