進化への自発的な発見を促すリアルタイム骨格比較ツールの開発

Thesis
Haruka MINEMURA, 進化への自発的な発見を促すリアルタイム骨格比較ツールの開発, 筑波大学, 2017, https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/45528/files/201521645_thesis.pdf

情報学学位プログラム 2016年度 修士論文。

概要

 近年進む、リアルタイム CG やタブレット端末によるICT 教育の普及により、デジタル ツールによる教材の実現が可能となった。デジタルツールは、能動的に操作を行うことができるため、学習者が自発的に知識を獲得する発見的学習に適している。また、WebGLを利用することで、OSに縛られない汎用性の高い教材開発が期待できる。
 一方で、教材としての表現の困難さから教材の不足が指摘されている分野が、生物の「進化」に関する教材である。進化を複合的に捉えるために必要であると言われる「系統樹」 「骨格の観察」の複合的な理解を促す教材を、デジタルツールによる新たな表現によって開発することで、学習者が自らの観察によって発見的学習が可能となると考えられる。
 そこで本研究では、進化への自発的な発見を促す新たな教材として、3DCG モデルの変形アニメーションと系統樹型の UIを用いた、リアルタイム CG 骨格比較ツールを提案した。
 提案手法では、進化教材として取り上げられることの多い「前肢の骨格比較」を題材とし、系統樹を参考とした CGモデルの骨格比較によって進化への理解を促すことを目的とした。学習者は比較ツールを使用する際に、系統樹を模した系統樹型 UIから比較対象となる2種の生物を選択し、CG モデルの変形アニメーションの閲覧から2種の比較を行う。このツールにより、学習者は「系統樹の学習」、「骨格構造の観察」、「骨格の比較による自発的な知識の獲得」という3つの観点から、進化について広い観点から知識の発見を行うことが可能になると予想した。
 評価実験の結果から、学習者は提案手法の閲覧により、複合的な視点から生物や進化に関する発見的学習を行うことができたと考えられる。発見の内容は、複数の視点から進化を捉えた「系統樹と骨格構造の関係性」や「進化により相同器官の多様性・類似性が生まれたこと」を含んでおり、進化の教授価値の一つとされる「進化の垂直的側面と水平的側面」の学習につながる内容である。今後の学習への契機となりうる、学習による楽しさや、生物への興味・関心の向上についても高い評価を得ることができた。
 また、従来型の教材との比較により、提案手法は従来の紙メディア教材と同程度の知識を学習者に与えることが可能であるほか、立体構造の観察に優位であることが示唆された。 特に、提案手法は、骨格構造のねじれや角度の比較といった、立体構造の比較に対して有効であると考えられる。
 今後、提案手法の操作性や自由度を調整していくことで、より快適な観察を実現できる と考えられる。また、提案手法の使用による発見的学習の後に解説の機会を設けるなど、生物や進化の学習全体を通した学習方法について、検討を重ねる必要があると考えられる。

  • 主研究指導教員:金 尚泰
  • 副研究指導教員:森田 ひろみ