2014年度修士論文。
概要
現在利用されている調理レシピの多くは、その内容のほとんどがテキストと写真によって成っている。現在日本で最も利用されているレシピサイト「Cookpad[30]」でも、調理手順のほとんどがテキストで記載されており、その他のレシピサイトにおいてもほぼ一般化した形式であるといえる。レシピサイトによって、より豊富な種類の調理レシピを、より効率よく探せるようになった。これまで調理方法がわからず手を出せなかった新しい食材にもチャレンジすることができるようになり、献立の選択肢を増やす大きな役割を持っている。しかし、近年の調査によると、調理の「段取り」が難しい、という悩みをもつ人が約3割存在し、その多くがレシピサイトを利用する20~30 代の比較的若い年代であることがわかった[2013,クックパッド]。これは、調理手順がすべてテキストで書かれているために、全体の行動の流れを俯瞰できず、各作業ごとの順序付けを行いづらいことが原因であると考えられる。また、椎尾ら[7] は段取りが難しいことの原因として、調理レシピの記述の逐次性を挙げている。多くの場合、一つの調理レシピに対して一品の調理手順しか記載されていない。また、調理手順がテキストで書かれており、その形態は逐次的で、「手が空いた時は別の作業をする」といった実際の状況と乖離がある。そこで、テキストで書かれたレシピを構造化し、調理行動それぞれの所要時間や、作業の重みをひと目で把握することができるように表現することで、着目すべき点が把握しやすくなり、段取りがわかりやすくなると考えた。まず、現在調理手順の伝達方法として最も用いられているレシピサイトの構成を調査し、「段取り」がわかりづらい原因を考察した。次に、並列的な作業を表現する方法として、手順書やマニュアルのビジュアル表現を参考とした。手順書やマニュアルは、ビジネスシーンや国際的資材などで用いられており、作業工程を正しく把握できるよう考案されてきたものである。調理レシピも、順番に工程を踏む作業を指示するマニュアルの一種であると言えるため、これらの表現方法を参考にした。提案手法を用いて印象評価を行った結果、調理行動の可視化による俯瞰性や端的な動作表現、翻訳の利便性について高い評価が寄せられた。また、並行した作業を行うことが難しい統合失調症などの患者へ調理行動を促せるのではないか、といった前向きな印象が得られた。また、この提案手法によって、これまで食材や調理器具のみで検討されてきた調理レシピについて、「調理動作の負荷」によって調理レシピを選択できるようになることが示唆された。これについては今後、既存手法を用いるなどレシピからの情報抽出を自動化することによって、より多くのレシピをタイムラインレシピビューで表現することで可能になると考えられる。