本研究は、個人間でスキルを売買するスキルシェアサービスにおいて、クライアントの抽象的なイメージをクリエイターへ正確に伝えるためのコミュニケーション改善手法を提案したものです。デザインの専門知識を持たないクライアントが、自身の抱く「かわいい」「クール」といった曖昧な印象(印象語)を基に、AIを活用して視覚的な「素案」を生成し、それを基準に修正指示を行うシステムを開発しました。検証実験の結果、従来のテキストのみの手法と比較して、特に服装などの視覚的要素において伝達精度が向上し、認識の齟齬を低減できることが示されました。

研究のきっかけ
近年、個人の特技を商品とするシェアリングエコノミーが急速に拡大しており、中でもイラスト制作やキャラクターデザインの受発注は活発に行われています。しかし、デザインの依頼には特有の難しさがあります。
クライアントが頭の中にある「こんな感じ」というイメージを言葉にしようとしても、適切な専門用語(髪型の名称や服の構造など)を知らなければ、クリエイターに正確な意図を伝えることができません。本研究では、この「言語化の壁」が原因で、納品物がイメージと異なったり、修正のやり取りが何度も発生したりするコミュニケーションコストの問題に着目しました。
特に、SNS等で議論となっている「生成AIの画像をそのまま資料として渡すと、情報量が多すぎてクリエイターの想像力を削いでしまう」という課題を解決するため、適切な「抽象度」を持った視覚資料の作成支援を研究の出発点としました。
取り組んだこと:システムの設計と試作
本研究では、クライアントが言語化しやすい「属性(性別・年齢)」や「性格・雰囲気」を入力することで、キャラクターの「素案」を提示する『こんな感じ』システムを開発しました。
開発にあたっては、以下の3つのポイントをソフトウェア設計に盛り込みました。
- 創造性を阻害しない「線画」の提示:過度に具体的な画像はクリエイターの自由な発想を縛る可能性があるため、あえて色や陰影を排除した「1bitのハイコントラストな線画」を出力するプロンプトエンジニアリングを採用しました。
- 印象語からの色彩提案:「Color Pedia」というデータセットを活用し、入力された性格や雰囲気から連想される色候補を提示します。そこからさらに「淡い」「暗い」といったトーンのバリエーションを展開し、直感的に色を選べるUIを構築しました。
- 「ギャップ」の言語化プロセス:生成された画像が「正解」ではなく、あくまで「比較対象」として機能するよう設計しました。「提示された画像と、自分のイメージのどこが違うか」をテキストで補足することで、主観的なニュアンスを明確化させる構成としています。

検証実験と得られた知見
提案手法の有効性を検証するため、クライアント役とクリエイター役に分かれた比較実験を行いました。既存のテキストテンプレートのみを使用する群(A1群)と、開発したシステムを使用する群(A2群)で、意図の伝達率を評価しました。
実験データからは、以下のような知見が得られました。
- 無自覚な伝達失敗の可視化:テキストのみの手法では、クライアントが「簡単に入力できた」と感じている「髪型」や「目」といった要素が、実際にはクリエイターに最も正確に伝わっていない(一致率が低い)という、無意識な伝達の失敗が発生していることが判明しました。
- 伝達精度の向上:提案システムを用いた群では、クリエイター側から見て「イメージを具体的に想像できた」とする回答が大幅に増加しました。特に「服装」においては、平均スコアが既存手法の3.87から4.73(5点満点)へと大きく向上し、素案画像が共通基盤(共通の理解)として強力に機能したことが客観的に示されました。
- 思考の明確化支援:利用者の反応として、印象語を入力し画像を確認するプロセス自体が、クライアント自身の「アイデアを固める助けになった」という自己評価の向上も確認されました。
今後の展望と成果
本研究により、抽象的な言葉と適度な抽象度の画像を組み合わせる手法が、デザイン依頼における認識齟齬の解消に有効であることが示唆されました。この仕組みは、キャラクターデザインに限らず、ロゴデザインやインテリア、ファッションなど、感性が重視される多様な受発注シーンへの応用が期待されます。
今後は、画像生成AIの制御精度をさらに高め、部位ごとの詳細なこだわりをより直感的に反映できる仕組みを模索していく予定です。本研究の成果は、デザインの知識がなくても誰もが自由に創作を依頼でき、クリエイターも迷いなく制作に打ち込める、より円滑なスキルシェア社会の実現に寄与するものと考えられます。