LLM を活用したキャリア支援ツールの開発と評価 -筑波大学「CARIO」 を題材として-

Thesis
福地良健, LLM を活用したキャリア支援ツールの開発と評価 -筑波大学「CARIO」 を題材として-, 2026,

情報メディア創成学類 2025年度卒業研究論文

 

概要

本研究は、大学生が自身の経験を記録し、記録に基づく自己分析を行う過程を支援するために、大規模言語モデル(LLM)を活用した対話型キャリア支援ツールを開発し、その有効性を検証したものである。筑波大学で活用されてきた紙媒体のキャリア支援ツール(CARIO・SAGASU)が抱える「記録の難しさ」「分析の難しさ」という課題に着目し、記録と分析を統合したWebアプリケーションとして再構成した。
比較実験の結果、提案ツールは記録・分析タスクにおける作業時間の短縮や、操作性・満足度の向上に寄与する傾向が確認された。以上より、本研究で提案した対話型キャリア支援手法は、既存の紙媒体ツールの課題を軽減し、自己理解を支援する新たな可能性を示した。

 

研究のきっかけ(動機)

近年、キャリア教育は単なる就職支援にとどまらず、「自己理解を深め、自ら将来を構想する力」を育てる教育として重要性を増している。筑波大学では、学生が経験を記録する「CARIO」と、自己分析を行う「SAGASU」という独自の取り組みが行われてきた。

CARIOホームページ https://syushoku.sec.tsukuba.ac.jp/career/?page_id=11470

しかし、これらは紙媒体のワークシート形式であるため、

  • 記入項目が多く、手順が複雑である
  • 記録と分析が分断されている
  • 過去の記録を探し出して参照する必要がある

といった課題があった。

一方で、教育現場ではICTの普及が進み、さらに近年はLLM(大規模言語モデル:大量の文章データを学習し、自然な対話や要約が可能なAI技術)が発展している。
本研究は、「対話型AIを活用すれば、経験の言語化と自己分析をより自然に支援できるのではないか」という問いから出発している。

 

解決・制作のアプローチ(プロセス)

■ 記録機能:対話による経験の言語化

本システムは、PCで利用可能なWebアプリケーションとして開発された。
記録機能では、チャットボットとの対話を通じて出来事を振り返る。

プロセスの特徴

  1. 「最近どんなことがあった?」などの自由な問いから開始
  2. 入力内容に応じて動的に生成される“追い質問”
  3. 対話内容を自動要約
  4. 追加情報の入力と再要約が可能

このように、固定的なワークシートではなく、対話の流れの中で振り返りを深める構造とした。

 

■ 分析機能:12要素による横断的自己分析

分析機能では、過去のすべての記録を参照し、以下の12要素に基づいて自己分析を行う。

<課題>

  • 情報収集力
  • 企画力
  • 計画力
  • 主体的行動

<対人>

  • 対人理解
  • 表現力
  • 協同・統率
  • 関係構築

<自己>

  • 規範意識
  • 自己管理
  • 自己理解
  • 将来志向

これらはSAGASUの枠組みを参考に再構成されたものである。

分析結果は、

  • 要素別スコアの数値化
  • レーダーチャートによる可視化
  • 強み・弱みの提示
  • 分析に基づくアドバイス

として提示される。

記録と分析が一つのシステム内で連続的に行える点が、本研究の設計上の重要な特徴である。

 

検証実験と得られた知見

本研究では、紙媒体ツール使用群と提案ツール使用群の比較実験を実施した。

■ 評価指標

  • タスク完了時間(定量評価)
  • 5段階リッカート尺度による主観評価
  • 自由記述による定性評価

■ 主な結果

  • 記録タスク・分析タスクともに作業時間が短縮
  • 操作のしやすさ、満足度が高い傾向
  • 「柔軟な質問が良い」
  • 「人を相手にしないことで心理的負担が軽減された」
  • 「客観的視点を得られた」

といった意見が確認された。

これらの結果から、LLMによる対話型支援は、
①記録の心理的負担の軽減
②分析作業の効率化
③客観的視点の提示
に寄与する可能性が示唆された。

 

今後の展望と成果

本研究は、紙媒体中心であったキャリア支援を、LLMを活用した対話型デジタル支援へと再構成した点に意義がある。

特に、

  • 記録と分析の統合
  • 学習者の自然な言語入力の活用
  • 蓄積データに基づく横断的分析

は、従来のキャリア支援ツールの構造的課題を補完する設計であるといえる。

今後は、

  • 長期的な継続利用による効果検証
  • 自己分析を加えた分析の深化

などが課題として挙げられる。

本研究は、対話型AIを「思考を代替する存在」ではなく、「省察を支援する存在」として位置づけ、キャリア教育の新たな支援モデルを提示したものである。