リアルタイムエフェクトを利用したメディアアート作品「モノオモイ」の制作

Thesis
, リアルタイムエフェクトを利用したメディアアート作品「モノオモイ」の制作, , (), p. , 2008,

概要

 新しいものを見た時の驚き、知らない場所へ行った時の興奮、不思議なことに出会った時の興味等、見慣れてしまった景色や日常の中では殆ど感じることのない気持ちを日常の生活の中で生み出すことを目的とし、本研究ではメディアアート作品「モノオモイ」を制作した。

 身の回りに溢れているモニタと描かれているものが動くことのない絵画を組み合わせ、今までに見たことのない今の自分の姿が描かれた絵画、動く絵画を制作した。本作品のコンセプトはアトリエの片隅に置かれた描きかけの絵画が自分の前を通る人々に語りかけているというものである。
 表示に利用するモニタ(15inch)は20F(727×606 mm)のキャンバスの中心に設置した。そして、キャンバスをイーゼルに立てかけ、イーゼルの周りには絵の具や筆や椅子等で装飾しインスタレーション作品とした。カメラやコードなどは特に注意を払い鑑賞者からは見えないように設置した。
 鑑賞者を撮影するためniWebカメラを、処理にはPCを、表示にはモニタを用いた。画像処理はリアルタイムエフェクト処理を得意としたMaxという言語を用いた。モニタにはWebカメラで取り込んだ画像をマスキングし、ディレイをかけて予め用意した背景動画と合成したものを表示した。合成の際、背景動画はキャンバスの色と設置場所の環境に合わせて色、明度、コントラスト、彩度を調整した。ディレイは鑑賞者が作品に向かってくる、作品の前で手を振る、回転する等を想定し実際に試した結果88msとした。

 調査は筑波大学春日キャンパス1階の廊下にて不特定の主に大学生20人に対して行なった。本作品を体験した後に紙面による5段階の選択式及び記述式のアンケートを行なった。記述式のアンケートによると「実際に体験してみて自分が作品の中に入り込んだ気持ちになった」、「自分の姿が遅れて動くことで自分が絵画になったような不思議な感動を覚えた」、「監視カメラのように映すのではなく、少し不鮮明な点や時差のある点にセンスを感じた」等の評価を得られた。見慣れてしまっているはずのモニタやビデオカメラの映像で、現在の自分自身が動く人物がとなり目の前に現れた時、楽しさや不思議な感覚を印象付ける作品が出来上がった。

 キャンパス内の普段何気なく通るだけの空間をキャンバスや画材によってアトリエに見たてた。そして「モノオモイ」は通りかかった人々をモデルとし、動く人物画を描くことで人々に語りかけた。本研究で制作した「モノオモイ」というメディアアート索引は人々に楽しさや不思議さを感じてもらえる作品に仕上がった。